インテリアと睡眠調査

2019年インテリア産業協会の助成金を受け、インテリアと睡眠の調査を行いました。そしてまとめたレポートは100ページ以上のボリュームに。その内容をこちらのページにまとめていきたいと思います。

はじめに

「嗜好に合った寝室のインテリアコーディネート」は、睡眠の質を向上させられるか?ということを調べてみようということになったのは、次の2つの理由からです。1つは、日々のインテリアコーディネーターの仕事の中で、室内空間を整えた部屋は、なんらかの生理的・心理的な影響をお客様に与えていると感じているが、それを何かで確認できないだろうかとを考えました。

2 つめは、近年ウエラブル機器が簡単に手に入るようになり、睡眠の記録や睡眠の質を確認 することができるようになりました。調査メンバーの数名もウエラブルを使って自分の睡眠の状況を確認していたことから、それを利用してインテリアを模様替えで変えたことによるモニターの変化を、計測することができるのではないかと考えました。

現代の社会問題の一つとして睡眠負債が取り上げられるほど、睡眠への関心が高く、また日本人の平均睡眠時間は、世界平均と比べると約 40 分短いという情報もあります。健康で長 生きをするために、そして日々の生活の質を向上するためには睡眠が大変重要です。現状は、家族と過ごすリビングダイニングの室内空間を整えても、寝室までなかなか手がまわらない方も多いのが実情です。寝室の空間を心地よく整えることは睡眠に良い影響をもたらすのか、モニターにどのような生理的・心理的な変化を生むのか調査することにしました。
*この調査は公益社団法人インテリア産業協会から助成を受けて実施しました。

調査研究グループ
プラスアート推進会 睡眠とインテリアの調査研究グループメンバー
オブザーバー 染矢 由美子、齋藤伸一

モニター調査担当
A 邸 中西八枝佳 真栄城麻美
B 邸 井手和江 福澤陽枝
C 邸 立原由美子 石黒久美子
D 邸 松浦千代美 坂牧恵美子
E 邸 住吉さやか 梅本靖子

調査研究活動の内容と結果

調査対象と調査方法

調査対象:モニター10名(ご夫婦、5組)

 フェースブックページや、インスタグラムなどのSNS、クラウドファンディングページを通じて募集しました。今回の調査では睡眠の状況を調べるためモニターは、募集後に睡眠についての調査アンケートを行い重度の睡眠障害のおそれがある方や睡眠時間が不規則な方ではない方の中から、慎重な検討を重ねお願いしました。

選考基準:被験者の条件を統一するため、以下の条件を満たす方を選びました。

・⾸都圏にお住まいのご夫妻(パートナー可)5組10名
・睡眠にご不満がある、またはより深い眠りを求めている⽅
・ご⼀緒の寝室で、毎⽇ベッドで就寝されているご夫婦
・寝室にカーテンをご使⽤の⽅
・スマートフォンをお使いの⽅
・約4週間の調査にご協⼒いただける⽅(10⽉下旬〜12⽉初旬頃)
・模様替え前後の写真、アンケート、データを公開の許可をいただける⽅
・4週間ウエアラブル機器と睡眠日誌を付けていただける方

調査方法

ウエアラブル、睡眠測定アプリと温湿度計と睡眠日誌で調査。

1)普段通りのままの寝室での睡眠状況を1週間測定。
2)被験者の嗜好に合うように、壁1面の壁紙と、カーテン、クッション、ベッドリネンを変更して1週間測定する。
3)模様替えの1週間後、アート設置して1週間測定する。
4)アート設置1週間後、グレアのないシェードと電球色の照明スタンドを設置して1週間測定する。
1~4までの合計4週間ウエアラブルにて測定。

模様替え内容(無償)

壁紙(1面の壁)を貼り替え、カーテンを掛け替え、ベッドリネンを変更 、クッション設置 、アートとスタンド照明を設置(終了後返却)

スケジュール 

6月~7月      調査の趣旨に賛同し協力してくれる企業を募集
9月4日        クラウドファンディングによる資金調達が終了
9月10日       インテリア提案の方向性の打ち合わせ
9月14日~      モニター選定、希望をヒアリング及び現場の採寸、打ち合わせ
9月下旬        プレゼンテーション
10月中旬        模様替えの内容決定、商材・工事手配
11月2日3日    モニターのウエアラブル測定開始
11月9日 10日  模様替え実施(壁紙、リネン、カーテン設置)
11月16日 17日 アートの設置
11月23日 24日 照明の設置
12月1日までに  アート、照明、ウエアラブル等の引き取りとデータの受け取り
12月下旬〜    『睡眠プロジェクト』調査・研究成果まとめ

調査前に検討したこと

・熱帯夜や極寒の季節を避け、比較的快適で安定した気候の秋にデータを採取する。
・モニタリングの期間は、当初2か月を予定していたが、モニターの負担も大きく、また結果も1週間程度で良いと専門家によりアドバイスをいただき期間を1か月とする。
・主観的な熟睡度や爽快度の方が、ウエラブルの数値よりも大事であると専門家よりアドバイスをいただき、睡眠日誌の記録を調査内容に加える。
・できるだけ上質な空間にするため、企業に賛助をお願いしに行くとともに、クラウドファンディングで模様替えの費用を募る。
・モニターの方へは、1か月の調査協力のお礼として、壁紙(1面の壁)を貼り替え、カーテンの掛け替え、ベッドリネン一式 、クッションの費用を無償とする。
・壁紙などの模様替えだけでなく、アート設置による変化や、照明を導入するとどう変わるかについても調べてみたいということで、1週間ずつずらして導入する。
・照明の導入の変化をみるため睡眠の前5分程度、モニターに照明をつけていただき過ごしてもらうようにする。

調査方法1:ウエアラブルについて

モニターの方に、Fitbit社の時計型のウエアラブルを睡眠時につけていただいて調査しました。これは医療用ではなく、個人が自分の状況を確認し、生活改善のために使われる機器で、睡眠の状態や活動状況を測ることができます。

Fitbit社のウエアラブルは、肌に触れる部分から緑色の LED ライトを肌に照射することで、血流の変化を検出し、そのデータを活用して1 分間あたりの心拍数を記録できます。睡眠についても、睡眠の長さ、浅い睡眠、深い睡眠、レム睡眠を記録し睡眠の質を見る事ができます。今回の調査ではその測定値をみることでモニターの方の状況を確認しました。下記の写真はアプリから見る事ができるデータです。

今回はFitbit社のアプリの睡眠スコアも睡眠の質向上の目安として利用しました。睡眠スコアは睡眠時間・睡眠の質などのスコアから計算され、睡眠時間が長く深い睡眠やレム睡眠の時間が長いほどスコアが向上し、睡眠中の心拍数が高い場合はスコアが下がります。

スコアの目安は、非常に良い(90-100)、良い(80-89)、普通(60-79)、悪い(60未満)となっています。

深い睡眠は、通常睡眠の最初の数時間で起こります。 朝起きた時に目覚めがすっきりしている時は前夜に深い睡眠がしっかりとれていることになります。年を取るにつれ深い睡眠量が低下する傾向があり、身体的な回復と記憶と学習の側面を促進し免疫システムの働きもサポートすることから、睡眠スコアと深い睡眠の数値を特に確認することにしました。 

調査方法2:睡眠日誌について

睡眠の専門家に主観的な感覚の方がウエラブルのデータより大事だとアドバイスをいただき、ウエアラブルだけでなく下記のような睡眠日誌をつけてもらい、睡眠における主観的な感覚の変化の記録をお願いしました。

記入してもらった項目は、起きた時の熟睡感と、爽快感です。左側の悪いから、右側の良いまでどのあたりが該当するか感覚で記入いただく形式で、印が書かれた位置を測り数値化ました。

*無断使用を固く禁じます。

予算とクラウドファンディング

できるだけ良質なインテリア空間にしたいという考えから、多数の企業を訪問し賛助のお願いしました。しかしそれだけでは5部屋分の模様替えの費用を考えると資金的に難しいことから、クラウドファンディングを立ち上げてその費用に充当できればと検討しました。

クラウドファンディング(crowdfunding)とは群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、インターネットを通して自分の活動や夢を発信することで、想いに共感した人や活動を応援したいと思ってくれる人から資金を募るしくみです。

クラウドファンディングをすることで、一般の方(クラウドファンディングのページを閲覧する方)にインテリアについて興味を持っていただくこともできるのではないかということも考えて取り組みました。

クラウドファンディングはall-or-nothingという、募集期間中に目標金額に届かなければ資金を受け取ることはできず支援者に全額返金される仕組みを選びました。初めての経験なので達成できるかわからず不安ではありましたが、多くの方のご協力により1,285,000円で目標を達成することができました。

達成した9月6日で、ようやくどのくらいの予算を模様替えにかけることができるか目安ができました。その後モニターの方を訪問しご希望のヒアリングを行い、全体の予算を考えながら今回の模様替えの提案をしました。次のページからは、各モニターの方の状況をお伝えします。

モニターの調査実施状況

ご要望をヒアリングするにあたり調査メンバーの質問事項を共有するためヒアリングシートを準備して実施しました。提案については各モニターの好み、年齢、部屋の形状、床や壁の色、日照の条件なども違うことからそれぞれのモニターに合わせた提案を担当者が行いました。日当たりが良いところや窓の外が夜明るいところは、遮光カーテンを提案し寝るための部屋として室内空間を整える提案をしました。

モニターの方にはそれぞれいつもの生活を続けていただきながら、1か月の様子を調べさせていただきました。モニターの方それぞれの生活サイクルや生活空間があることでの調査となったため、極端に睡眠時間が短い日などは記録から外すことにしました。また、ウエアラブルの不具合から数値がとれない日もありました。それぞれの睡眠調査のデータは、ウエアラブルの数値と睡眠日誌の記録を数値化して表にまとめました。個人個人のデータの比較についても記載しています。今回まとめの中では、統計的に有意なデータとはならなかったものもありますが、それぞれのモニターの変化を知ることができました。

調査結果・まとめ

「嗜好に合った寝室のインテリアコーディネート」は、睡眠の質を向上させられるか?ということを調査しましたが、今回の結果から1週目(ビフォー)と2週目(模様替え後)と、1週目と模様替え後3週間の平均を比較すると、主観的な熟睡度や爽快度が模様替え前に比べ向上していました。このことから寝室を嗜好に合ったインテリアにすることで、主観的な睡眠の熟睡感や爽快感が向上する可能性があることがわかりました。

アンケートをとると、モニターご自身だけでは今回変更したような室内空間にすることができなかったと感想をいただきました。
プロのインテリアコーディネーターがモニターにヒアリングをし、寝室という空間に合った色や素材を選びコーディネートを提案することで、睡眠の熟睡感や爽快感といった主体的な感覚を上げる可能性があります。
例えば今回は、東側の窓で日当たりのいいお部屋や窓の近くに夜も明るい施設がある部屋には、遮光性のあるカーテンや裏地を使いました。照明については導入の方法や機器の選定に注意が必要ですが、照明をうまく取り入れることで、深い睡眠を促すリズムづくりができます。
今回の結果特に男性は、インテリアを整えることでウエアラブルの睡眠スコアも上がっていたことから、より効果を実感しやすいのではないかと考えます。

寝室はリビングダイニングなどに比べると関心が薄く、インテリアについてもさほど重視しない傾向があります。しかし今回の寝室の室内空間を整えることで睡眠の主観的な感覚を高めてくれるという結果がでたことから、私たちは寝室もリビングと同様にインテリアコーディネートを考え睡眠に合った室内環境を整えていくことで、睡眠の質を高めそして更に人生の質を高めてくれると考えます。
今後「寝室を整えることも大事」ということをインテリアコーディネーターだけでなく、一般の生活者にも知ってもらうことで、睡眠環境の改善、人生の質の向上につながるような活動をしていきたいと思います。

調査の結果まとめについては、下記のブログで詳しく紹介しています。

寝室のインテリアにお悩みの方へ

プラスアート推進会では、以上ののような調査を行いました。

インテリアやアートを空間に積極的に取り入れることで、人生の質の向上をはかるお手伝いをしていきます。引き続き睡眠とインテリアの研究をすすめていきます。寝室を整えたいという方がいらっしゃいましたら、お問合せください。

また企業の皆様も、一緒に何か取り組みたいなどあればお声かけください。


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